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東京地方裁判所 平成7年(ワ)15918号 判決

原告

鶴田幸雄

右訴訟代理人弁護士

中村誠

被告

東京都品川区

右代表者区長

高橋久二

右訴訟代理人弁護士

近藤善孝

右指定代理人

菊池研一

外二名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は、原告に対し、三〇〇万円及びこれに対する平成七年九月一九日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

原告は、品川区に居住し、いじめ体罰根絶協議会を主催すると主張するものであるが、平成三年一二月三日、東京都品川区立八潮北小学校の担任教師(三浦佳津美教諭)が女子児童に対して暴行したとして争われている体罰事件(東京地方裁判所平成六年(ワ)第二三四八九号損害賠償請求事件として係属中である。以下、これを「本件体罰事件」という)について、平成四年二月一日、品川区教育委員会指導主事若月秀夫が行った調査において、同主事が調査と称して右児童に対する平手打ちなどの暴行を再現した事実があったとの情報を得たことから、被告に対し、右指導主事による暴行の有無に関する調査及びその調査資料の公開等を要求したところ、被告が右調査を怠り、かつ調査したと偽って「暴行の事実なし」との内容虚偽の公文書を作成・交付したこと等により原告に対し違法に精神的損害を与えたと主張し、被告に対して、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償を請求する。

被告は、右体罰事件及び右指導主事による暴行の事実そのものを否認するとともに、右の暴行事件に関する法令上の調査義務もなく、内容虚偽の公文書を作成したこともないと主張して争う(以下、右指導主事の暴行の有無が問題となっている事件を「本件暴行事件」という)。

一  争いのない事実等前提事実

1  原告は、品川区に居住する区民であり、被告は、特別区として教育委員会を設置管理し、教育事務等を行う地方公共団体である。

2  原告は、本件暴行事件の当事者ではないが、後記のとおりの経過でいじめ体罰根絶協議会(旧名称・品川区体罰根絶協議会)を主催するようになり、その活動の一環として、被告所属の公務員に対し、次のとおり本件暴行事件についての調査及び調査資料の公開等を求め、別紙経過一覧表記載のとおり、右公務員から被告作成にかかる各公文書(同表記載の文書①ないし⑦)の交付を受けた。すなわち、

(一) 不存在通知(その一)

(1) 原告は、平成五年六月一〇日付で、品川区教育委員会教育長相川明に対し、本件暴行事件につき、その事実の有無を調査したうえ結果を報告するよう申し入れた(乙第二号証の一)。

これに対し、右教育長は、同月二八日付公文書(以下「文書①」という)で、平成四年二月一日に事実関係を調査したときの出席者から事情聴取するなどして状況を把握したところ暴行の事実はなかった、との回答を行った(乙第二号証の二)。

(2) 原告は、平成五年七月一〇日付で、右教育長に対し、文書①から状況を把握することは困難であるとして具体的な事実関係についての認否を求める質問書を提出するとともに、同日付で本件暴行事件を告発する旨の書面を提出した(乙第二号証の三、四)。

これに対し、右教育長は、同月二二日付公文書(以下「文書②」という)で、文書①の回答どおりであり、各質問事項について改めて回答はしない旨回答した(乙第二号証の五)。

(3) 原告は、右調査の事実の有無を確認するため、同年八月四日付で品川区教育委員会事務局学校教育部長岡田康夫に対し、右調査の際作成された資料につき、品川区情報公開条例に基づく公文書公開請求を行った(乙第二号証の六)。

これに対し、右部長は、同月一三日付公文書(以下「文書③」という)で、公文書に該当する右調査資料は存在しない旨の内容の公文書不存在通知を行った(乙第二号証の七)。

(二) 不存在通知(その二)

(1) 原告は、念のため、平成六年八月二一日付陳情五二号をもって、品川区長高橋久二に対し、本件暴行事件について調査しその結果を知らせるよう申し入れた(乙第三号証の一)。

これに対し、右区長は、同年九月二一日付公文書(以下「文書④」という)で、既に回答のとおり暴行の事実はないとの回答をした(乙第三号証の二)。

(2) 原告は、同月二六日、品川区企画部長乾錬太郎に対し、右回答の基礎となった調査記録の公開を請求した(乙第三号証の三、四)。

これに対し、右企画部長は、同年一〇月三日付公文書(以下「文書⑤」という)で、右調査記録が存在しないとの公文書不存在通知をした(乙第三号証の六)。

(三) 不存在通知(その三)

品川区教育委員会事務局学校教育部長乾錬太郎は、同教育委員会教育長に対し、本件体罰事件及び本件暴行事件に関する公文書公開請求に対する公文書非公開決定処分についての原告からの審査請求事件の手続において、調査したところ体罰事故にはあたらないとの平成四年七月二七日付、同年八月六日付、同年一一月一二日付各弁明書を提出していた(乙第四号証の二)。そこで、原告は、平成七年六月八日、品川区学校教育部長岡田康夫に対し、その調査記録の公開を請求した(乙第四号証の一)。

これに対し、右学校教育部長は、同月二二日付公文書(以下「文書⑥」という)で、右調査記録はいずれも存在しないとの公文書不存在通知をした(乙第四号証の三)。

(四) 不存在通知(その四)

原告は、平成七年六月一三日、品川区総務部長磯村圭吾に対し、同区総務部で調査した本件暴行事件に関する調査記録の公開を請求した(乙第五号証の一)。

これに対し、右総務部長は、同月二六日付公文書(以下「文書⑦」という)で、右調査記録が存在しないとの公文書不存在通知をした(乙第五号証の二)。

二  争点

(原告の主張)

1 本件暴行事件の調査義務及び調査記録作成義務違反の違法

(一) 被告は、次のとおり、本件暴行事件の調査義務及び調査記録作成義務を負う。

(1) 体罰は、児童の発達段階にある身体に対する侵害であって決して許されない行為であるうえ(学校教育法一一条但書)、教師と児童の間の信頼関係を失わせ、場合によっては児童の人格形成に大きな否定的影響を与えてしまうという意味で、教育の本質を否定する行為であるから、被告は、広く教育関係者が体罰を行ったと疑うべき事実がある場合、これを公正かつ適正に調査する義務を負う。

また右の体罰の特質からすれば、調査結果を情報公開制度を通じた区民による事後的チェックという民主的コントロールに服せしめるため、被告は、体罰についての調査記録作成義務を負うものである。また、教員が体罰事故を起こした場合には、体罰報告書等の調査資料の作成が義務づけられているのであるから、指導主事が体罰を行ったと疑われる場合にも、被告は調査記録作成義務を負うと解すべきである。

以上の調査義務及び調査記録作成義務は、当該事件の当事者からの申入れだけでなく、第三者からの申入れに対しても生ずるものであり、仮に被害者本人からの調査要求がなくとも、第三者からの報告や要請があれば、教育に対する信頼維持のため、調査を開始しなければならないというべきである。

(2) 原告の子が、平成元年三月三日に品川区立城南中学校で生活指導担当教師から暴行を加えられた件につき、同月三〇日付で同校校長名の体罰報告書が教育委員会に提出された。原告が右事件をきっかけに体罰の防止を決意し、教育委員会と交渉を続けた結果、平成二年一二月一一日、体罰根絶品川宣言(品川区教育委員会告示二二号)が制定されるに至った。そして、同区教育委員会教育長は、平成四年三月一七日、原告に対し、教育委員会が文書をもって体罰根絶を宣言し、区立小中学校の校長室と職員室に体罰を根絶する旨を掲示するとともに、教育委員会事務局次長、同指導室長、同指導主事の名刺の裏面に、右宣言を刷り込むこと及び教職員の体罰根絶への意識の徹底に努力することを確約した。さらに、同月二一日、原告と右教育長との間で、教育委員会が右宣言の周知を図ると共に、教職員の体罰根絶への意識の徹底を図るため努力すること、これにより原告の子に加えられた体罰問題を解決することとする旨の合意がなされた。

右合意によって、教育委員会は、原告に対し、品川区において体罰が二度と行われないよう努力し、体罰と思われる事件が発生した場合には誠実にこれに対処し、体罰の一掃を図る義務を負うに至ったものであるから、被告は、体罰について調査義務及び調査記録作成義務を負う。

(3) 品川区情報公開条例一条は、憲法二一条で保障された知る権利(情報公開請求権)を具体化したものであり、区民の区政への参加の機会の拡大、区民と区政との信頼関係の増進、民主的な区政運営の実現を目的とすることを表明したものであるから、民主的な討論の資料を提供して種々の社会的な問題に検討を加えるためにも、情報公開請求権者の範囲をできる限り広く解すべきであり、また実際にも請求権者に制限を設けない運用がなされている。かかる情報公開条例の趣旨及び運用からすれば、被告の行政事務の遂行に関しては、法令上の根拠があるか否かにかかわらず、できる限り文書を作成保管し、公文書の公開を通じて区民との民主的な討論の場に提供すべき義務があると解すべきであるから、被告は、本件暴行事件についての調査記録作成義務を負う。

(二) 被告所属の公務員は、原告の本件暴行事件の調査申入れに応じて「調査した結果、本件暴行事件はなかった」旨回答する一方(文書①②④)、その調査資料が存在しないと回答しているが(文書③⑤⑥⑦)、公務員が調査を要求され、これに応じて調査したうえで調査結果について回答する以上、回答の根拠となる調査資料を作成しないはずはないから、調査資料が存在しないことは、本件暴行事件の調査を怠っていたことを示すものである。したがって、被告は、本件暴行事件について調査したうえ調査記録を作成する義務があるにもかかわらずこれを怠ったという違法な不作為により、前記合意に基づき原告が被告に有する体罰問題に誠実に対処することを求める権利及び品川区情報公開条例に基づく原告の情報公開請求権を違法に侵害した。

被告は、本件暴行事件があったとされる平成四年二月一日、調査の過程で行われた話合いに参加した者のうち五名に対して右暴行の事実の有無を確認調査したと主張するが、その五名は、校長、教頭、指導主事等の学校関係者にすぎず、本件暴行事件があったと主張する保護者らは除外されているのであるから、適正な調査は行われていない。

2 内容虚偽の公文書を作成・交付した違法

(一) 被告は右に述べたとおり、本件暴行事件につき調査をしなかったにもかかわらず、原告に対し「調査した」旨の内容虚偽の公文書(文書①②④)を作成・交付して原告の前記権利を違法に侵害した。

(二) 被告は、公文書非公開決定処分についての審査請求事件において提出された本件体罰・暴行各事件が体罰に当たらないとの弁明書記載の判断の基礎となった調査資料についての、原告からの公文書公開請求に対して、本件体罰事件については八潮北小学校長作成の体罰報告書が、本件暴行事件については同校教頭作成のメモ(通称「若月メモ」)が存在するにもかかわらず、原告に対し、「調査記録が不存在である」旨の内容虚偽の公文書(文書⑥)を作成・交付して原告の前記権利を違法に侵害した。

3 損害

原告は、被告所属の公務員の右違法行為により多大の精神的苦痛を受けたものであり、右精神的苦痛に対する慰謝料額は少なくとも三〇〇万円を下ることはない。

(被告の主張)

1 調査義務及び調査記録作成義務違反の主張について

(一) 調査義務について

行政庁の権限不行使が違法となるためには、作為義務が法令によって課せられている必要があり、作為義務が明示的に課せられていない場合は、行政権限の不行使は、一般的に不作為の作為義務違反が認められる要件としての「不作為のときに危険な状態にあったこと」、「作為に出ることによって結果の発生を防止できたこと」に該当するにもかかわらず行政権限を行使しなかった等、権限踰越や濫用がない限り、行政庁の自由裁量の範囲内であって違法とはならない。

一般に、行政庁が行う調査には、法令により定められた調査を行い、法令に基づく回答義務を有する調査と、法令には定められていないが、当該行政庁において事業を遂行する上で必要とする情報収集のための回答義務のない調査とがあるところ、本件暴行事件に関する調査については、作為義務が法令に明示的に規定されていない。そして、原告の調査申入れは、本件暴行事件があったとされる日から一年四か月以上も経過してからの突然の申入れであったこと、本件暴行事件があったとされる当日の前記話合いの出席者ではない第三者からの申入れであり、話合いに出席していた者からの調査依頼は一切なかったこと(なお、右の話合いは、前記指導主事及び当該児童の他、当該児童の母親、校長、教頭、並びに他の保護者六名の合計一一名が出席したものであり、その場で右指導主事が当該児童に対する本件体罰事件の有無を調査したものである)に鑑みると、かかる原告からの申入れについて調査を行うか否かは、行政庁の自由裁量に任されているというべきである。

平成四年二月一日に指導主事から本件暴行を受けたとする当該児童の主張はマスコミ経由の情報ではあったが、本件体罰事件の事態の収拾に努めてきた教育委員会としては、体罰根絶品川宣言があることにも鑑みて、念のため、平成四年二月一日当時の記録書を参考にして、平成五年五月二六日、前記話合いの参加者のうち保護者ら五名に対して直接事実確認を行ったうえで、同年六月二八日、原告に対して本件暴行事件がない旨を回答したもので(文書①)、右は適正な裁量によるものであり、被告の行為は何ら違法ではない。

(二) 調査記録作成義務について

右のように法令には基づかないものの行政庁において事業を遂行するうえで必要な情報収集のために行う、調査義務のない調査については、行政庁が、専門的判断に基づく自由裁量の範囲内で、調査を行う方法、手段、書類作成の有無を決定できるものであるところ、右(一)で述べたところによれば、被告において、調査記録を作成しなかったことはその自由裁量の範囲内であるというべきであり、被告の行為は違法ではない。

(三) 品川区情報公開条例は、区民の知る権利を憲法で保障する基本的人権に内在する権利として捉え、これを実効的に保障するために創設されたものではあるが、同条例は、公文書の作成を義務づけるものではなく、請求者に対して行政の実施機関が保存・保管している公文書の公開を義務づけるものである。

したがって、同条例を根拠に調査記録作成義務があるとする原告の主張は失当である。

2 内容虚偽の公文書を作成・交付したとの主張について

(一) 被告の原告に対する「調査した」旨の公文書(文書①②④)の作成・交付は、自由裁量の範囲内での調査義務を負わない調査をした結果に基づくものであるから、右各文書は内容虚偽の公文書ではなく、被告の行為は違法ではない。

(二) 体罰事故にあたらないとの弁明書の「調査記録が不存在である」旨の公文書の作成・交付について、本件体罰事件についての体罰報告書と本件暴行事件についての教頭作成メモが存在することは認める。しかし、学校教育部長は右各文書についての原告の平成四年六月一七日付、同年七月一日付、同年九月一一日付の各公文書公開請求に対して、既に平成四年六月二九日付、同年七月一〇日付、同年九月二五日付の各公文書非公開決定通知をしているものであるから、原告からの更なる公文書公開請求に対して、既に非公開決定通知をした公文書を除外して判断・決定通知をするのは当然である。また、文書⑥には「※この通知の内容について疑問などのある場合はお問い合わせ下さい」との注意書きが付記されているから、原告は直ちに疑義をただすことができたはずである。

したがって、被告は原告に対して内容虚偽の公文書を作成・交付したものではないから、被告の行為は違法でない。

第三  争点に対する判断

一  本件暴行事件の調査義務及び調査記録作成義務違反の違法について

本件暴行事件のような教育関係者の暴行の有無につき、住民からの調査申入れがあった場合に、被告に右申入れに従い調査を実施し調査記録を作成する義務を課した法令上の規定は見当たらない。

原告は、体罰の特質や原告と教育委員会教育長との前記合意を理由に、被告が本件暴行事件の調査及び調査記録作成義務を負う旨主張するが、右事情から直ちに右のごとき法律上の調査義務及び調査記録作成義務を認めることはできない。

また、原告は、品川区情報公開条例を右の調査記録作成義務の一つの根拠とするが、同条例は公文書の公開を一定の要件のもとに義務づけるものであって、これが公文書の作成そのものを義務づけるものとはいえないから、原告の右主張も採用できない。

したがって、被告には、本件暴行事件に関し、法令上の調査義務を負うものとはいえないし、被告は、本件暴行事件に関し、調査を実施するか否か、調査を実施するとした場合の方法、手段、並びに調査記録を作成するか否かについて、その自由な裁量においてこれを決することができるというべきである。

もっとも、右のように、法令上、調査義務及び調査記録作成義務について定めた明示の規定がない場合でも、行政庁による当該調査の不作為について、差し迫った生命、身体、財産に対する危険な状態があり、かつ、当該調査の実施による権限行使が右の危険の回避にとって有効適切な方法であるといった特段の事情が認められる場合には、右の調査をしないことの不作為が自由な裁量の範囲を逸脱した違法な行為と評価される場合があるというべきであるところ、本件においては、原告が行った調査申入れは、本件暴行事件が起きたとされる日から一年四か月以上経過した後になされたこと、原告は本件暴行事件の当事者でない第三者であり、右事件当日の前記話合いにも参加していない者であったことに鑑みると、仮に、原告主張のとおり、被告が右話合いに出席した学校関係者からしか当時の状況を確認せず、かつ、その点につき記録を作成しなかったとしても、そのことが右の裁量権を逸脱した違法なものということはできない。

したがって、被告において、本件暴行事件について調査及び調査記録作成義務違反の違法があると認めることはできず、また、そうである以上、公文書としての調査資料が存在しないとの通知をした文書③⑤⑦の作成・交付行為が違法であるということもできない。

二  内容虚偽の公文書を作成・交付した違法について

1  右に説示したところによれば、文書①②④は自由裁量に基づく調査をした事実について「調査した」旨記載して通知したものと認められるから、これをもって内容虚偽の公文書であるということはできず、したがって、被告の右各文書の作成・交付行為が違法であるということはできない。

2  文書⑥は、品川区教育委員会事務局学校教育部長作成の前記弁明書の基礎となった調査資料に関する原告からの公文書公開請求に対する公文書不存在通知であるところ、本件体罰事件についての八潮北小学校長作成の体罰報告書と本件暴行事件についての前記若月メモが存在することは当事者間に争いがなく、右各文書は、右公開請求にかかる公文書に含まれるといえる。

しかしながら、乙第七号証の一ないし三によれば、原告は、平成四年六月一七日付(公文書の内容・八潮北小学校女性教師による事件)、同年七月一日付(公文書の内容・八潮北小学校女性教師事件若月調書)、同年九月一一日付(八潮北小学校校長報告書)で各公文書公開請求をしたこと、右請求に対し学校教育部長は、平成四年六月二九日付、同年七月一〇日付、同年九月二五日付で各公文書非公開決定通知をし、前記体罰報告書及びメモについては、既に原告に右の非公開決定を通知済みであることがそれぞれ認められる。

このような場合、同一人から再度、右非公開決定にかかる文書を含むと思われる公文書に対する公開請求があった場合には、再度の非公開決定通知をする必要はなく、これを処分決定の判断対象文書から除外してその判断をすれば足りるものと解される。

したがって、被告が既に非公開決定済みの文書について再度非公開決定をせず、対象文書が不存在であると通知したとしても格別虚偽の公文書を作成・交付したことにはならないと解すべきであるから、文書⑥は内容虚偽の公文書であるとはいえず、被告の右文書の作成・交付が違法であると認めることはできない。

三  以上によれば、原告主張の教育委員会教育長との前記合意に基づき体罰問題に誠実に対処することを求める権利なるものが認められるか否か、あるいは右のごとき権利又は品川区情報公開条例に基づく情報公開請求権に基づいて慰謝料請求権が発生するか否かについて判断するまでもなく、原告の被告に対する請求はいずれも理由がないことに帰する。

よって、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大和陽一郎 裁判官阿部正幸 裁判官菊地浩明)

別紙〈省略〉

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